「喜んで買ってくれる最大限の値段」を付けるべきだ

外資系ホテルが思い切った値付けをするのは、世界の相場を知っているからだ。つまり、「ドル建て」で価格を見ているのだ。

戦後、日本は長い間、「良いものを安く売る」のが経営だと信じてきた。松下幸之助翁の水道哲学を持ち出すまでもなく、モノが絶対的に不足している時には、それが正義だったとも言える。だが、今は違う。モノやサービスがあふれ、むしろ余っている時代になっているわけだ。そんな中で「値付け」も大きく変わっている。

稲盛和夫氏は『実学』という著書の中で、「値段を安くすれば誰でも売れる。それでは経営はできない」とキッパリと言っている。「お客さまが納得し、喜んで買ってくれる最大限の値段」を付けることが経営だとしているのだ。今や世界からやってくる外国人が消費を支えているのだから、彼らが喜んで買ってくれる最大限の値段を観光業・サービス業に携わる人たちは付けるべきなのだ。そのためには「ドル建て」で適正価格を考えることが一つの主砲になるだろう。

観光客を乗せて京都の竹林を走る人力車
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ホテル業界で浸透してきたダイナミックプライシング

顧客が喜んで買ってくれる最大限の値段を提示する「ダイナミックプライシング」が日本国内でもだいぶ広がってきた。ホテルチェーンのアパホテルは、部屋代の基準価格の1.8倍まで支配人の判断で値付けできる仕組みを導入している、という。従来、ホテルでは部屋の稼働率を重要な指標にしてきたが、アパホテルの場合、稼働率と室料をかけた指数を評価基準にしている。つまり、満室にすることが絶対ではなく、空室ができたとしても高い価格で部屋を販売することがプラスに働くケースも出てくるわけだ。こうしたダイナミックプライシングはホテル業界ではかなり浸透してきた。

そもそも安すぎる飲食やサービスは、かなりの部分、低賃金によって支えられている。価格を引き上げれば、より高い賃金を支払うことが可能になり、それが最終的には国内消費につながってくる。